『寒かったころ』

セルフライナーノーツ 「林ヒロシから、小林政広へ」

映画『バッシング』が、ボクの第七作になります。
この映画のエンディングに、30年前録音した、林ヒロシ名義のアルバム「とりわけ10月の風が」の中から『寒かったころ』を使うことにしました。
小林政広の映画のテーマ曲に、林ヒロシの曲を使うことにしたのです。初め、それは、急場しのぎのことでした。後で、差し替えようと考えていたのです。 札幌で行ったダビング時にも、別の曲を用意していて、(それは、はっぴいえんどの『さよならアメリカ、さよならニッポン』でした!)原版の使用許可を取り付けようと、連絡を取っていたのです。無駄なあがきだと言うことは、薄々感じていました。原版の使用許可などと言うものは、そう簡単には取れないからです。おまけに、大金が必要になります。それでも、ボクは、何とか、林ヒロシの唄を、外したかったのです。それは、ボクにとって、過去の産物以外の何ものでもなかったからです。
30数年前、まだ高校生だったボクは、高田渡さんに拾われ、弟子のようになって、あちこちを唄い歩いていました。それでも人一倍自我が強かったボクは、「まだ早い。我慢しろ」と言う師に背いて、アルバムを自主制作しました。それが、林ヒロシ「とりわけ10月の風が」だったのです。  『バッシング』のエンディングテーマは、『寒かったころ』に決定しました。 そして、その頃から、また唄うことへの愛着が募っていきました。
昨年四月に、高田渡さんが亡くなりました。そして、今年二月、下北沢ラ・カーニャで開かれた30年ぶりの「林亭」のコンサートに、ゲスト出演したことで、それは、更に募っていきました。
このCDは、林ヒロシならぬ、小林政広の歌い手としてのデビュー作です。
ボクの再出発は、過去の唄『寒かったころ』『君の胸の中で休ませておくれ』と、そして、30年前に、高田渡さんと共作した未発表の唄『夜行列車のブルース』。高田渡さんの唄『仕事さがし』で、構成されています。
近い将来、小林政広のデビューアルバムが制作されるのを前提に、まずは、「ごあいさつ」の意味で。
2006.04.01 小林政広

 

-「寒かったころ」収録曲歌詞

寒かったころ  作詞・作曲:小林政広
もう見えなくなります  汽車は通りすぎて行きます
もう見えなくなりました  汽車は通りすぎていきました
陽が昇るころもう一度  陽が昇るころもう一度
ここまでやって来ようと思います 陽が昇るころもう一度だけ
好きだったあの娘は  この街にはいません
好きだったあの娘は  もうどこの街にもいやしません
ひとりぼっちだったことを知り  ふとひとりぼっちだったことを知って
かわいそうな街だと言って  ボクは眠りにつきます
この街を出る前に この街を出る前に
窓を閉めきってしまいました そして眠りにつきました

君の胸の中で休ませておくれ  作詞・作曲:小林政広
ねえねえ君の胸の中で休ませておくれ
ねえねえ君の胸の中で休ませておくれ
おいら凍えた冬を両肩からぶら下げてる
ねえねえ君の胸の中で休ませておくれ
一晩明かして おいら 働きづくめ
一晩明かして おいら 働きづくめ
ろくに仕事になんてありつけやしねえし
一晩明かして おいら 働きづくめ
明日にはきっと帰ろう そうきっと帰ろう
君の夢をみて眠るのも 今夜限り
ねえ君の胸の中で休ませておくれ
君の夢を見て眠るのも 今夜限り

イタリアの天使  作詞・作曲:小林政広 
あーたくさんだこんな風の吹く公園は
よごれた新聞紙が空を舞う
ここにもないですか ここにもないですよ
あそこにもないですか あそこにもないですよ
穴ぼこはないですか だまされないでおくれ
これまでだつたんですか ここまでだったんですね
いつか君の住むイタリアへ行きたい
田舎町じゃほこりも立つだろう
そんなに遠い話じゃないんだ
ポケットは絵筆でいっぱいだから
たくさんの色を使った浜辺で腰をおろし
あの国のことを思い浮かべていよう
ねぇ一体どうしたんだい
いつもはうつむいてばかりいるくせに
なにをそんなに浮かれてるんだい
大嫌いだあんたがすぐに逃げちまう
今日かぎりでここを出ようと思う
さようなら年老いた意気地ない詩人たちよ
魂は少しすりへっちまった
望みもそんなにありゃしない
でもいつだって思いのままさ
この通り翼だってあるもの
空を飛んでいくのもいいな
できればこんな風の吹かない朝にでも
おめでとう ちっぽけな唄を贈ります
おめでとう おめでとう
いつだって君のもとへ駆けつけたいだけ
おめでとう ちっぽけな唄を贈ります
一晩のうちに素敵な恋をしてしまう
君はこの街でたったひとりの天使だ
このまま死ねるんなら立ったままで
三日月お月さんごきげんよう
まるでとるにたらない毎日よ
君の足音だけでも残していっておくれ
まるでとるにたらない毎日よ
君の足音だけでも残していっておくれ

仕事さがし  作詞:作曲:高田渡
乗るんだよ電車によ 乗るんだよ電車によ
雨の日も風の日も 仕事にありつきたいから
飲むんだよ苦いコーヒーをよ 飲むんだよ苦いコーヒーをよ
履歴書を書くために 仕事にありつきたいから
新聞を見たよ 新聞だって見たよ
電話だって掛けたよ 仕事にありつきたいから
随分歩いたよ 毎日毎日ね
色んなヤツにも会ったよ 仕事にありつきたいから
乗るんだよ電車によ 乗るんだよ電車によ
雨の日も風の日も 仕事にありつきたいから

夜行列車のブルース  作詞:小林政広、高田渡 作曲:小林政広
明日になったら 君にあえると
おいら荷物をまとめ 夜汽車に乗るんだ
おいらゴトゴトと ゆられてゆくのさ
いい気持ちになってきて おいらウトウトさ
つらなる枕木に ひとつひとつ聞いてみるんだ
あの娘のもとまでは あとどれくらいかかるものかって
そうよあんたの他に だれもいないし
それに誰もあたいのコトを 好きじゃないのよ
だからあんたには わからないでしょうね
私みたいな女が いつあんたの事を好きになるかって
淋しい気持ちで じっとしているよりも
もっといいことが ありそうな気がするから