PROFILE

masahiro kobayashi

小林政広(こばやし・まさひろ)
1954年東京生まれ。15歳の時フランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』(1959)に衝撃をうけ、映画監督になることを決意。『名前のない黄色い猿たち』で第8回城戸賞受賞をきっかけに映画、テレビの脚本家として活動する。1996年42歳で初監督作品『CLOSING TIME』を自主製作。映画製作会社 有限会社モンキータウンプロダクションを設立。

美しいモノクロームとシネマスコープ。嫉妬に狂う男達の奇妙なロードムービー。カンヌ映画祭
ディレクター(当時)ジル・ジャコブ氏に 「コメディ映画」と評された『海賊版=BOOTLEG FILM』(1998)。殺し屋の仕事を得て、生き甲斐を取り戻す男の友情を描いた『殺し』(2000)。家族の心の葛藤を自伝的ストーリーに練り上げ、今は亡き名優 緒形拳氏がユーモラスに演じた『歩く、人』(2001)。社会から疎外されながらも、人生の新たな旅立ちを決意する女性を描いた『バッシング』(2005)。これら4作品はカンヌ映画祭への出品を果たした。少年時代父と通った映画館で影響を受けた数々のフランス映画へのオマージュが、彼らの心に届いた。
不幸せな女と一途な男の純愛が切ない『女理髪師の恋』(2003)。台詞を排除した斬新な手法で、絶望の中、生への再生から愛の物語へ『愛の予感』(2007)。困窮のなか理不尽な大人たちと対峙しながらも懸命に生きる少年を優しい眼差しで追った『ワカラナイ』(2009)。ある夫婦の融和の過程を静かに綴った短編作品『逢う時は他人』(2013)。これら4作品は、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンに次ぐ国際映画祭 スイスのロカルノ映画祭へ出品。
なかでも、プロデュース、脚本、監督そして主演も務めた『愛の予感』では、第60回ロカルノ映画祭 最高賞である金豹賞に輝く。さらに国際芸術映画評論連盟賞、ヤング審査員賞、ダニエル・シュミット賞と4冠同時受賞の快挙を成し遂げた。モンキータウンプロダクション設立10周年記念作品である。その後、ロッテルダム映画祭ほか彼のレトロスペクティブ(回顧展)がプログラムされるなど、彼の独創的でユニークな作品群は特に海外で評価されている。

10年越しの企画で亡き父に捧げた映画『春との旅』(2010) では、フランスでの観客賞、スペインでの最優秀監督賞、毎日映画コンクール 日本映画優秀賞受賞。
即身成仏の覚悟を決めた父。大胆なカメラワークと重厚なモノクローム、至福の過去をパートカラーで甦らせた『日本の悲劇』(2012)は、俳優 仲代達矢氏に捧げられた脚本が実現した作品でもある。『逢う時は他人』(2013)は、韓国 全州国際映画祭の名物企画でもあるJeonju Digital Project(三人三色)による短編作品。毎年国際的に活躍する3名の監督に同じテーマが与えられ、完成した作品をオムニバス形式で同映画祭でお披露目した。日本では未公開。
2015年にはスウェーデンの劇作家ストリンドベリが1901年に発表した戯曲『死の舞踏』で、仲代達矢、益岡徹、舞台女優 白石加代子を迎え朗読劇の演出にも初挑戦。
最新作は仲代達矢氏との三作目となる『海辺のリア』(2016)。

これまでに16本の長編作品を発表したが、殆どが彼のオリジナル企画で脚本、プロデュースも務めている。商業主義に屈しない自由な発想の彼の脚本に、一流の俳優たちが共鳴し賛同を得られたことは映画にとって幸福な出逢いであり、また彼にとって救いとなった。

ー 映画は反抗でなければならない ー  フランス ヌーベル・ヴァーグを代表する監督の一人、フランソワ・トリュフォー監督の名言が彼の創作の原点である。敬愛するトリュフォー監督のカンヌ映画祭 監督賞受賞作『大人は判ってくれない』(1959) は、若き日の映画青年が渡仏への決意を固めるきっかけとなった運命の映画である。

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