『CLOSING TIME』 “Closing Time”

『CLOSING TIME』製作ノート

僕は、初監督作品である『CLOSING TIME』を、それほど重要な作品だとは思っていません。ただ、ジャン・ルノワールがヌーベル・ヴァーグ最盛期に言ったように、「ジョルジュ・シムノン作」や「アンドレ・ジイド著」があるように「フランソワ・トリュフォー作品」や「J=L・ゴダール作品」といった作家主義的映画が日本にも存在すべきだと思っているだけです。ただ、それだけの理由から、僕はこの映画の製作に入りました。
無名の作家が自己世界を提示するのに唯一残された道が自費出版であるのと同様、僕の記念すべき処女作は自主(費)制作という形をとりました。
幸いにもテレビドラマの仕事を長年やっていた事で、数人の心を通わせ合える役者さん達と友人、知人となり、又、ピンク映画の台本も書いていたことからサトウトシキという特にスタッフの間で人望の厚い人間と出会え、僕の夢はあっという間に現実のものとなりました。
僕は『CLOSING TIME』を私小説を書くように作ったわけではありません。あくまで大衆小説よりの ー 日本だけの表現で言うなら ― 中間小説的なあいまいさを目指しました。しかしそれは、僕の資質から出たものであり、僕の唯一の武器だからです。コマーシャリズムに迎合した結果では、決してありません。
シナリオを書き始めた頃、新藤兼人氏の、誰でも一本の傑作シナリオは書ける、それは自分の事を書けばいいのだ、といったような言葉を読み、感銘した覚えがあります。シナリオが書けるなら、映画も作れるはずです。情熱さえあれば、2本でも3本でも作れるはずです。問題は、その情熱を、いかに持続させてゆくかです。
トリュフォーは、生涯で長編映画を21本作りました。しかも、1本たりとも、おしきせの企画で作った作品ではありません。映画作家として生きたトリュフォーに、僕は敬意を払わないでいられません。そして僕は、これからの生涯、映画作家たりうるために、1本でも多くの作品を作りつづけなければならないと思っております。
ちなみに、この映画は、僕の父親を含めたすべての父と、2人の師に捧げられています。Mr.TOM WAITSと山田宏一氏です。『OL’ ’55』がなかったら、僕は20代を生き抜けなかっただろうし、『友よ、映画よ』がなかったら、それからの人生が、夢のないみじめなものになっただろうと思います。
この製作ノートは、山田宏一氏が様々な著作の中で翻訳され、引用されたトリュフォーの言葉で締めくくるべきだと思います。
「ジャン=ポール・サルトルは、自分をこの世で必要不可欠の存在であると信じて疑わない人間を『人でなし』と呼んだ。それはまったくそのとおりだとは思う。そのことを認めた上で、なお、わたしは、ジャン・ルノワールのようにおおらに考えたいのである ー 人間だれしもかけがえのない存在なのだ、と。」
小林政広 「CLOSING TIME」パンフレットより 1997年

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脚本・監督:小林政広
音楽:佐久間順平
撮影監督:西久保維宏
照明:南園智男
録音:鈴木昭彦
編集:金子尚樹
助監督:女池 充
協力プロデュース:サトウトシキ

男:深水三章
マスター:中原丈雄
信子:大森暁美
アケミ:中野若葉
トシコ:石倭裕子
酔いつぶれた女:芦田由夏
クミコ:実相寺吾子
石川:大橋吾郎
安西:中西良太
公園の母親:持田雅代
レイ:夏木マリ
米田:平泉 成
公園の女:安原麗子
サックス吹きの男:隈本吉成
久保:北村一輝
トンカツ屋の店員:ベンガル
坂井:守屋俊志
(出演順)

撮影:1996年3月 東京 ほか
公開:1997年11月

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劇場公開時チラシ