『日本の悲劇』パンフレット

<B5版 全44頁>
目次

1.かいせつ
2.ものがたり
3.監督、出演者略歴
4.プロダクションノート/小林政広
5.目を向けて、未来を開きたい/湯浅誠
6.いま、人はどう追いつめられているか/福間健二
7.『日本の悲劇』密室で生成されるあやまち/港岳彦
8.埋まらない喪失感/モーリーロバートソン
9.小林政広『日本の悲劇』公開への祈りを込めて/石塚秀哉
10.寄せられた声 コメント
11.完全収録脚本

試写が終わると、ボクは席を立って、逃げ込むようにトイレに向った。とてもじゃないが、仲代さんの顔を見られない。しかし、用を足していると、そこへ仲代さんが入ってきた。「ええ?! 仲代さんもトイレに行くのか!」と思ったが、当たり前の話だ。仲代さんの第一声は、こうだった。「いやぁ、良かったですよ! 今度はダメかなあと思っていたんだけど、傑作ですよ!」と!
仲代さん以外、誰にも声を掛けてないのだから、誰かが来るわけでもないのだが、ボクは、仲代さんと向かい合っているのが苦痛で、席を外し、外に出て、時間を潰した。そのうち、試写開始の時間になった。仲代さんは、試写室の真ん中に座り、微動だにしない。ボクは、最後部席で、試写室が暗くなるのを、目を閉じて待った、
仲代さんは、イマジカのロビーで、険しい表情をしていた。イマジカの人が気を利かせて、コーヒーを用意してくれた。ボクが挨拶をすると仲代さんは、「どうですか、出来上がりは」と訊く。「どうでしょうか」とボクは口を濁した。勿論、自信はあった。録音の福田伸さんの尽力の結果、画で描かれない部分を、音が立体感をもって表現している。しかし、俳優部的にはどうなのかと言うと、話は別なのだ、
電話は、仲代さんのマネージャーからだった。「監督、今、どちら?」と訊く。「五反田の駅の近くです」「直ぐに来てもらえますか? 仲代が、今、イマジカに到着しました」ボクは、ひっくり返らんばかりに驚いた。時計を見た。試写開始まで、あと2時間もある! 「あの、開始時間より、2時間も早いんですが」「ええ、判ってます!」「すぐ行きます!」ボクは、とるものもとりあえず、店を出て、イマジカへと突っ走った ……
<プロダクションノートより抜粋>