『気仙沼伝説』について
小林政広
初めに、この映画の企画者であり、プロデューサーでもあった、今は亡き、畠中基博氏に哀悼の意を表したいと思います。
彼がいなければ、この映画は作れませんでした。
彼は、優れた企画者でした。しかし、一方で、壮大な夢想家でもあり、彼について行くには、相当のエネルギーを必要としました。随分と無茶な要求もされましたが、畠中さんの夢想には、とても魅力を感じていました。
この映画が未公開であるのも、その一因は、畠中さんにあるのかも知れませんが、詳しいことはわかりません。いつの間にか、そうなってしまっていたのです。
今現在、フイルムの在り処も判らないことに強い憤りを感じています。何せ、スタッフのほとんどは、この映画を観てないのですから!
スタッフだけに限らず、キャストも同様です。
気仙沼伝説は、「ええじゃないか、ニッポン!」というシリーズのうちの一本で、東北の全県で一本づつ映画を制作する予定でいました。東北が終われば、全県へとの構想も聞いたことがあります。つまり、各県で一本のご当地映画を作るという、壮大な計画の下に始まったのです。
最初ボクは、福島の担当で、田中裕子さん主演でシナリオの準備をしていました。そこへ突然、畠中氏から連絡があり、第一弾となる、宮城編を撮ってくれと言われたのです。聞けば、宮城編の監督が、降りたとのことでした。
それで急遽宮城編を監督することになったのですが、シナハンを済ませたボクは、まずは、オリジナルシナリオに取り掛かりました。
これはこの映画とは全く別のもので、日本ではあまり観たことのないような、エンターテイメント作になる予定でした。基は、フランスのマルセルバニョルの戯曲で、漁師とその新妻の話であり、その漁師が帰らない人になるというところから始まり、奇跡の再会を果たすというのが、このシナリオのストーリーでした。
畠中さんは、いたくボクのホンを気に入ってくれて、これで行こうということになったのですが、その時、同時進行で作っていた別の人の書いたシナリオが、優先され、ボクのシナリオは、ボツとなったのです。
普通ならそれで降りていたと思いますが、そうはいかない事情がありました。
とは言え、CGや特撮だらけのシナリオで、撮影に入るわけにはいきません。
クランクインが迫る中、ボクは地方の宿にこもり、この台本を書き直しました。
直さなければどうなるのかと聞くと、その時のラインプロデューサーは、スタッフのギャラは、支払えなくなると簡単に言ってのけたのです。
こうして、ボクは『気仙沼伝説』を監督しました。
予算の縛りがあるものの、撮影は順調に進みました。
気仙沼の人たちの全面協力があったからです。
映画の出来には、不満が残るものの、この映画では、普段できない様々な試みが出来ました。
主演の鈴木京香さんも、のびのび芝居をされていて、相手役の杉本哲太さんも、楽しそうに撮影に臨んでいました。
そのほかの豪華キャストも、同様だったと思います。
この映画が、未公開のままなのは、不幸なことですが、ボクは公開に出来るだけのことをしたつもりですが、力及ばず、もう、見ることはできなくなってしまったのかも知れません。
いつか、大画面で、この映画を観るよう実現したいと思っています。
この映画には、東日本震災前の気仙沼が、あますことなく活写されています。
映画は、出来上がるだけでは映画とは言えません。お客さんに観て貰うまでは、何の価値もないと思っています。
もう随分前の作品になりますが、近い将来、映画が劇場で上映されるよう、努力したいと思います。
2017/02/26 自宅にて
監督:小林政広
脚本:藤村麿実也、小林政広
撮影:伊藤 潔
照明:木村匡博
録音:北村峰晴
編集:金子尚樹
助監督:石田和彦
制作:植野 亮
川島輝子:鈴木京香
村井拓海:杉本哲太
瓜生達也:鈴木一真
殿村徳治:岸部一徳
川島房子:倍賞美津子
川島健太:水橋研二
串畑加奈子:尾野真千子
李 清龍:胡兵フービン
宮里千鶴:阿井莉沙
武野 武:國村 隼
滑川文一:田中隆三
鴨治吾郎:清田正浩
鳥飼婦人:加藤治子
釣田:品川 徹
神父:香川照之
大学長:大口広司
(少女時代)輝子:鈴木奈々
(少年時代)拓海:小野寺良介
撮影:2005年9月